昨年 地域の住民から、近所の小川に油が浮いているから一緒に現場を見てくれとの依頼があり現地へ向かいました。通報者は油の流出先は川沿いにあるコンビニエンスストアからのものではないかと疑念を抱いている様子でしたが、薄い油膜はどうも流入する下水路から流れ出ているようで、市役所の担当グループに調査を依頼してその場を離れました。その時に水面に浮かぶ油模様の下に10㎝未満の何らかの小魚の群れが縦横無尽に泳ぎ回っているのを発見し、以来その魚が何であるのかそれが気になり、いつしかそれは私の中で「捕ってみたい、小魚の正体が知りたい」との願望に変わっていきました。
しかし私は初老の男、公職に就く者が小川に浸かり玉網を手に魚すくいとは住民の目も有りその勇気は有りません、しかもここは私の地盤です。
ここで一計を案じ、脳内で「孫にせがまれてやむを得ず魚をすくっているおじいさん(またはおじさん)」のシーンを構想しました。それには子ども役が必要です、そこで所属する介護施設の女性スタッフの「〇さん」に声を掛けました。〇さんは小学生男子3人の母です、私は鳥獣魚虫に興味のある息子は何番目の息子かと聞きますと2番目の「H」が好きだどの答えに、即座に「〇ちゃん、Hくんを一日俺に貸してくれ、」と懇願しました。いいけど何するのとの問いに、魚とりをする、小川の縁で網を持って立っているだけでいい、危ないことは何もないと伝え母親との交渉は成立しました。
これで対外的な偽装工作は上手くいくはずでしたが当日になり、子ども1人を連れてくるはずが、〇さんはもれなく3兄弟全員を連れてきました。家庭内で情報が漏洩し「Hだけずるい、僕たちも行きたい」と兄弟間の紛争の火種となりかけ、それを収束するためのやむを得ない手段とのことでした。
3兄弟と私は小川に向い、川に入る気満々の子どもたちに「ここは深くて危ないからおじさんにやらせなさい」と、はやる子どもたちを制し、玉網を手に自らの川に入り、行きかう住民の目も気にせず私は思う存分魚とりを堪能し小魚をバケツに入れました。小魚の正体はエゾトミヨでした。通称「トンギョ」と呼ばれるこの魚は現在、環境省レッドリストには絶滅危惧Ⅱ類、道内でも希少種になりつつあるとのことで、さらにヤマベ(和名ヤマメ、サクラマスの河川型)も数匹捕獲できサクラマスが遡上していることも確認でき、私は当初の目的を達成し、また地域にこのような希少種が生息していることに喜びを感じました。
本年の夏は猛暑で小川に浸かって涼むのは持ってこいだわと思い、〇さんに「おじさんが本年も魚捕りに行こう」と子供たちに伝えてほしいと依頼しましたが、何ら返答はありません。その理由は不明です。