ある食堂での小話

 数年前の8月に、とある食堂で遅い昼食を取っていた時の出来事です。時間は午後3時頃で蒸し暑い日でした。
付近のテーマパークで取材を終えたと思われる30代の男性が撮影機材を抱え入店してきました。後から3人来る、と対応に出た女性店員に告げ、入口左側の小上がりに腰を据えました。汗を拭きながらメニュー表をみて「とりあえず」と言って瓶ビールを2本注文しました。 そして「かつ丼と天丼のご飯なし」はできるかと女性店員に聞きました。するとなぜかその店員(40代女性)は意外にも「できません」との答えです。ビールのつまみにすることは明らかで「お金は正規で払うし、ご飯を食べないのはもったいないからお願いしている、何で丼のご飯なしはできないの?」と男性客は再度質問をしましたが、店の営業方針であるのか独断であるのか定かではありませんが女性店員はやはり「できません」との一点張りで客の要望を拒否しました。

 私の他に数人の客がいましたが皆この成り行きを注視している様子で、男性客は徐々にヒートアップし「できない理由を教えてよ」「できないものはできないンです」と押し問答の険悪なムードになりかけた時、リーダーと思われる一人の女性が部下らしい男性2名を従えて入店してきたのです。女性はこれも40代でしたが仕事が出来そうな、ポテンシャルの高そうな感じのひとで、この澱んだ雰囲気を察してか「どうしたの」と先の男性客に問いました。男性は憤懣やるせない面持ちでこの一連の流れを説明した後、リーダーの女性は店員を一瞥して間髪を入れずにこう言いました、「それならそのまま持ってきてもらいなさいよ」。

 この一言で鮮やかにこのひと鎖の小話は終わりを告げそして男性たちに「会社にもどってからの業務分担だけれども・・・・・」と指示を出し始め、店の小上がりはにわかにミーティングの場と変貌し自分たちの仕事の世界へと没入していったのです。

 この女性上司は日頃からビジネスシーンにおいてこのような早急な判断を求められる立場にいるのかも知れません。素早い状況把握と的確な決断はどのような職種においても、また場面においてもリーダーとして大切な素養であると感じた次第です。