初夢

 草原の飛行場に5機の零式戦闘機が横一列にプロペラを回して試運転しています。南方戦線らしく飛行場脇に南国の樹木が生い茂っています。飛行服姿の私はその左端の零戦に向かって歩いています。
「行きたくない」 そう思いながらもこの気持ちを悟られてはならない、右手には操縦に必要のない軍刀を持ち、左上腕には中尉の階級章が付いています。私はこの隊の指揮官のようです。
 5機の零式戦闘機にはいずれも二十五番(250㎏爆弾)が装着され、搭乗する機体は初期の一号零戦(零式艦上戦闘機二一型)で濃緑色の塗装が所々剥がれて、元の灰白色とジュラルミンの地肌が見えています。胴体の至るところに被弾の補修パッチが膏薬のように張られており、かなり使い古された機体のようです。
 排気音は梵鐘のように響き渡り普通の声はかき消されます。私は搭乗機の周囲を目視にて確認し、プロペラ後流と排気ガスを浴びながら機体の左側にいる機付の整備兵曹に、やや大きな声で「今までお世話になった、これをもらってほしい」と軍刀を渡しました。兵曹はそれを両手で受取り「成功を祈っております」と泣き出しそうな顔を必至にこらえ返答しました。
 機体左側の手掛け足掛けを使い操縦席に乗り込み、補助翼、方向舵、昇降舵の作動確認後肩バンドを装着しました。左列線に並ぶ二番機に右手で手刀を切るように2回「ワレニツヅケ」の手信号を送れば列機は了解の合図。「チョーク払え」両輪に待機する整備兵に車止め外しを指示し、スロットルの把柄を徐々に手前に引き発動機の出力を上げると排気音は一層大きくなり機体はゆっくりと前進を始めます。
 搭乗前の煩悩はすでになく「さあ、行くぞ」との掛け声のもと飛行ゴーグルを掛け頭上を見上げれば、積乱雲と蒼穹の素晴らしいコントラストが広がっているのでした。

 リアリティに満ちたこの夢を朝、ありのままに家人に話したところ、おせち料理の残滓を別の器に移し替えながら彼女はこう言いました。
「そんな本や映画ばかり観てるからでしょ」