白昼夢

 令和元年8月22日のお話しです。
 札幌市で1泊研修があり2日目が終了して、札幌駅バスターミナルより16時発の室蘭行バスで帰ろうと思い立ち、乗り場にてやや早い時間からバスの到着を待ちました。私の前に並んでいたのは3~4名だったと記憶しています。15時45分にはバスが到着し、早々にバスに乗り込みました。
 私は前日の晩久々に後輩と会い杯を重ねたこともあり当日は若干便がゆるく、不意の便意に備えるため、バス最後部の歩道側に位置する車内トイレに最も近い後部座席に座りました。充電のためスマートフォンと荷物を窓側席に置き私は通路側に座りました。真後ろはトイレの壁、通路右側は最後部のベンチシートがあるのみです。
 発車時刻が近づくにつれ車内には乗客が断続的に乗車してきました。15時50分頃であったと思いますが、一人の女性が私の前の席に座りまた。その風体は身長157㎝位でやや丸型、黒のワンピース、黒髪ショートカットで40代と見受けられ丸顔でしたが妙に白い顔をしており、黒のショルダーバッグを持っていました。服装は一見すると喪服のようにも感じられました。
 バスのシートとシートの間はリクライニングのため約2㎝の隙間がありますが、その隙間から女性の黒い荷物の存在が確認でき、まもなくして女性は席を立ち私の横をかすめて後方に行きました。私はトイレに行ったものと思いました。
その後も乗客は途切れることなく続き各シートはほぼ満席状態となり、発車寸前の15時59分頃でしたか、ラフなスタイルの若いカップルが息を切らしバスに乗り込んで来て「あそこが空いているよ」などと言って私の前の席を指さし二人は無雑作にドカドカと着座しました。すぐにバスは定刻どおりに発車しました。
 見れば分かりそうなものを、私はそのカップルに「その席は先客がいるよ、黒の荷物が置いてあるからわかるでしょ」と言おうとした刹那、隙間から見えた黒の荷物が見当たりません、そういえばあの女性は随分長くトイレに入っているのも変だと思い後ろを確認した所、驚愕の事実を知ることになります。何とトイレは空室の状態となっており、しかも最後方のベンチシートは男性が2人座っているのみで、女性客の姿は一人もありませんでした。
 戦慄を覚えた私に空室表示のトイレ内を確認する勇気は持ち合わせておらず、その女性が再び現れることはありませんでした。
 勘違いと片づけるには事象を時系列で説明が付き、幻覚とするならば鮮明なビジュアルが今も脳裏に焼き付いています。私の横をすり抜けていった女性はどこに行って何であったのか。

 時節柄、ある夏の日の白昼夢として、このような話もたまにはよいかと思い記述した次第です。