続・挨拶まわり

 平成31年の1月末頃に私宛に一通の手紙が来ました。開封し読むとこのような内容のことが書かれておりました。
「かつて、あなたが私に言った暴言を今も忘れることができません、二度と私の家に近づかないでください、勝手に活動報告書を投函しないでください」と記されて、粗雑に折りたたまれたれた私の会報も同封されておりました。
 差出人にはI(仮称)と記されており、このI氏宅にポスティングしたのは私でした。

 「かつて」とは平成24年に遡ります。私が病院職員だった頃の話です。
  院内清掃業務の主任からある報告を受けました。院内の浴場に脱衣場に土足で入る人がいて困っているとのこと、清掃主任は口数は多くないものの実直な仕事ぶりで院内でも評判の高い人でした。片足に装具を付けた70代男性が土足で脱衣場に上がり込むのを何度も目にしており、ある日、外靴は浴場入口で脱いでいただきたいと懇願したところ、その男性は「足の不自由な俺になぜそのようなことを言うのだ」と逆上したと言うのでした。その男性がI氏でした。
 病院の浴場は広く、源泉から硫黄泉を引き評判がよく、但しその利用者は入院患者、デイサービス利用者、医師に許可を受けた外来患者に限られていました。
 私はI氏の院内の履歴を確認したところかつて数年前に入院、外来受診の履歴はあるものの、当時は通院しておらず、病院とは全く無関係の人物であることがわかりました。無関係の人間が無断で院内浴場を使い職員に迷惑をかけることを認めることはできません。
 約2か月調査期間を設け、I氏の行動パターンを把握しました。週1度午後4時頃に医師専用駐車場に車を入れ、職員通用口から院内に侵入していることが次第に判明しました。
 そして現場を押さえる日がやってきました。報告を受け私が浴場に行くと、I氏は確かに土足で脱衣場に上がり、風呂に入ろうと下着姿でした。私は穏便に、あなたの名前はすでに把握していること、浴場は関係者以外使えないこと、土足で脱衣場に上がられることは衛生上よくないこと、なにより無断で院内に入ってほしくないことを伝えました。
 至極当たり前のことを指摘されたI氏は声を荒げました、そして罵詈雑言を私にあびせました。その内容は割愛しますが、そこで私の中の何かの「眠れる虫」が目を覚ましたことは事実です。身体的ハンディ、尊厳には配慮しながら、自分の言動が社会的に、そして人間としてどうなのか、徹底的に追及しました。そして今日はすでに衣服を脱いでいるので入浴を特別に認めるが、これを最後にすること、次に見つけた場合は不法侵入として然るべき手段を取ることを申し添えました。
 その後I氏は病院へ来なくなりましたが、私の言葉は「暴言」として心に刻まれたのでしょう。うかつにもI氏宅に会報をポスティングしたことを反省しました。

 そして後日談があります。選挙が終わり5月に入り後援会活動を再開しました。自分の地盤とする地域は徒歩と自転車で回っておりますが、当然I氏宅には近づくことはありません。先刻議会事務局より連絡があり「若木議員、東町〇丁目のIさんと言う方から電話がありましたが、この方を知っていますか」、また何かのクレームかと私は身構えました、
そしてこう続きました「その方が『なんで俺の家に挨拶に来ないんだ』と言っておりました」。

  挨拶に行くべきか思案している私です。