お芝居太郎

 東京に住んでいた頃の出来事です。職場の女性職員に当時5歳の男の子がいました。その子が通う幼稚園は世田谷区にあり、経済的にゆとりのある家庭の子どもたちが通園していたようです。

 母である女性職員の談によれば、息子は毎日喜んで通園していたのですが、ある日から幼稚園に行きたくないと言い出したそうです。訳を尋ねると最近入園してきた、あだ名が「お芝居太郎」という子が、息子を含め同じ組の子どもたちをいじめるのだそうです。そのうち、「しばい太郎」は大阪方面から来た子だということが判ってきました。
 その後も太郎の、力による勢力拡大は続き クラスのみならず園内の覇権を掌握し、ついには登園を拒否する子も出てきたとの事でした。
 大阪仕込みの腕力を振るう前に、太郎は必ずこう発したそうです。「しばいたろか」。

 半年後位に、息子はまた生き生きとして通園するようになったそうです。理由は、ある日を境に太郎が幼稚園に来なくなったとの事でした。何等かの事由により太郎は退園し、約半年にわたる圧政はここに終わりを告げ、幼稚園はまたもとの平穏な日々を取り戻したそうです。

 私は女性職員に、太郎が突然いなくなった訳を尋ねましたが、「わからない」との事でした。