平成28年5月16日から20日まで、滋賀県大津市、全国市町村国際文化研修所において、1期目の議員を対象とした地方自治基本研修に参加いたしました。内容は以下のとおりです。
用務 平成28年度 新人議員のための地方自治基本コース
日程 平成28年5月16日(月)~5月20日(金)
場所 全国市町村国際文化研修所
滋賀県大津市唐崎二丁目13番1号
概況
上記日程で本研修が行われた。施設は敷地面積30,000平方メートル、建物面積17,657平方メートルと広大な敷地を有しており、宿泊定員は300人となっている。
初日16日(月)は研修所の内容説明、オリエンテーションを行い、その後夕食を兼ねた交流会が行われた。募集人員は35名となっていたが今回の参加人員は59名であった。
実際の研修は17日(火)より開始した。1日の流れは午前中2時限(①9:25~10:35、②10:50~12:00)並びに午後3時限(③13:00~14:10、④14:25~15:35、⑤15:50~17:00)の計5時限の時間割であった。
内容
5月17日(火)
午前中2時限 「地方自治制度の基本について」
講師 首都大学東京大学院社会学科研究科 教授 大杉覚氏
自治制度の基本として、地方自治は憲法保障(憲法第九十二条)されており、大日本帝国憲法と日本国憲法の相違点や、国と地方の関係を「上下・主従」から「対等・協力」地方分権は転換が図られていること、また地方自治は大きくは2つ「住民自治」“Local self governing”と「団体自治」“Local autonomy”に分類されるとの説明があった。また地方分権に関しては、平成12年、地方自治法の改正により枠組みが大きく見直され、機関委任事務の廃止により、地方自治体の事務は法定受託事務と自治事務に大別することになったが、これら事務権限の委譲は地方分権の自由度の拡大と、その反面各自治体の仕事量の増大を意味しており、喜べない側面もあるとのことである。また、これまで多くの方面より地方分権の改革が取り組まれているが今後はそれら取組みの成果と、限界点を再精査する必要があるとの講義内容であった。
午後3時限 「地方議会制度と地方議会改革の課題について」
講師 山梨学院大学大学院社会科学研究科長・法学部 教授 江藤俊昭氏
平成18年、栗山町議会に端を発した議会基本条例制定の流れは、全国の自治体に及び、従来の閉鎖的な追認主義から開かれた議会、いわゆる監視、政策提案型へと移行するに至った。地域のことを決めるのは議員であり、住民と共に議論を重ね、利害を調整し合意形成を図ることが重要であるとのことである。議決権は議員に付与された大きな権限であり、条例の制定、改廃も含まれている、その為に各議員は知識見識を広め、首長とは互いに政策議論を重ねることが肝要であり、地方議会制度と地方議会改革の終局的な目標は住民への広義的意味での福祉向上にあるとの講義であった。
5月18日(水)
午前中2時限、午後3時限 「地方議会と自治体財政」
講師 関西学院大学大学院法学研究科 法学部 教授 吉田悦教氏
まず、予算とは地方公共団体の取り組み方針と予定を歳入歳出という金銭的見積りで表したものとの説明があった。行政の施行は財政的裏付けによりはじめて実現可能であり、7項目にわたる財政運営の原則を示された。この運営の良否は住民福祉の向上や住民の利害に大きな影響を与えるため、予算編成には綿密な調製が必要とのことである。
その後決算、歳入歳出、財政診断と講義内容は複雑多岐に及んだが、本講義で得た感想は、自らが所属する自治体の財政状況の把握は、議員として必須項目であり、財政状況資料集等を見て各比率を読み解き、状況判断できるスキルを身に着ける必要性を強く感じた。
5月19日(木)
午前中2時限、「地方議会と政策法務」
講師 東北大学大学院法学研究科・公共政策大学院 教授 荒井 崇氏
研修初日に渡された62㌻に及ぶ資料に基づき、1.政策法務の意義の説明から始まり、2.法律の体系と一般原則、3.地方公共団体の自治立法権、4.条例立案の留意点、5.法令の解釈、以上の流れで講義は進んだ。
各カテゴリーが終わるごとに「確認クイズ」と称された口答試験が用意されており、講義に否がおうにも参画傾聴せざるを得ない。回答者は手許の市町村名簿順に指名されたので、次回答者が予測できたが、これがアトランダムな回答者指名であれば常に緊張感の伴った講義となり、国家公務員Ⅰ種職員が、受講生を講義に集中させる手法の一端を感じた。全体を通して、政策法務とは自治体が目的を達成するため、法的観点から合理的な判断を行い仕事をするメソロジーであることを学んだ。
午後3時限「演習」条例演習・意見交換・発表
受講者が8班、約8人に分かれ、研修前事前送付されていた5自治体の議会基本条例を元に、議会基本条例骨子案を作成する課題を与えられた。班分けの基準は自治体の人口数と思われる。各自治体の基本条例を読み込んでいることが前提とした比較討議であったため、当初班内でも理解力、観点の相違が感じられたが、議論を重ねる内、基本的な合意形成がなされ、自班として発表に至ることができた。惜しむらくは、「骨子案」より「条例案」に近いものを作成したため、内容が濃く時間切れとなったことである。また基本条例を制定していない自治体からの受講者もおり、これは今後の条例制定に関し大きな参考になったであろうし、登別市議会基本条例と、他自治体の基本条例を比較検討した場合の本市の優位点や特色、全国的な傾向を把握することができ、かなり有意義な演習であった。
5月20日(金)
午前中2時限、「分権時代の地方議会に期待されていること」
講師 明治大学公共政策大学院ガバナンス研究科 教授 山下 茂氏
「世間の常識、それは本当に正しいものか」の問いかけから講義は始まった。長年の海外派遣で培った見識で、資料を基に国際一覧総括比較、地方自治単位の編成単位、世界基準と日本の地方自治制度の差異、特色を示された。洋の東西を問わず、地方自治とは法律の範囲内で自らの責任において、住民のために公的事項の基本的な部分を規制し、処理する地方自治の権利及び実質的な権能であることを学んだ。
海外赴任、中央省庁、県副知事時代で得た知識と経験を踏まえた含蓄のある講義内容で、やはり共通する目的は住民の福祉の向上であるとの結論であった。
総括
講師陣は総務省(旧自治省)出身者が半分以上で構成されており、いずれの講師においても、卓越した記憶力、学習量を背景とした知識と理論構築、質問をすれば、栓をひねると無尽蔵の知識が湯水のごとく湧き出るような淀みのない回答。日本の中枢はこのような高度な頭脳集団で構成されているという、その一端を知ることができた。
基本研修とはいいながら、内容は、講師が元キャリア官僚や研究者のためクオリティの高いもので、専門用語を交えた講義はしばしば難解な場面もあり、したり顔で講義を聞きながら、影で密かに用語の意味を調べることも、また一つの学習であった。
今回4日間の講義で得た知識、知見は議員として確実に資質の向上となるものであった。今回我々が会得した見識、俯瞰的手法等の「道具」を誰に、どのように活用していくかはいうまでもない。
また市民の付託に応えるべく登別市議会基本条例に則った議員活動、並びに議会倫理条例に基づく、公人としてのコンプライアンスを矜持する重要性を再認識した。
報告の終わりに複数の講師が、講義の中で述べていたエッセンスを用いて総括の結びとしたい。「議員の資質向上は最終的に住民の福祉向上に帰結する」。